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Presence of haloarchaeal halorhodopsin-like Cl   pump in marine bacteria

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 微生物が持つロドプシンとは内部にレチナール色素を結合させた膜タンパク質で、光エネルギーを受容し、イオンを輸送したり、光センサーとして機能したりすることが知られています。この微生物型ロドプシンは、1970年に塩湖に生息する好塩古細菌から初めて発見されました。このロドプシンは、バクテリオロドプシン(BR)と名付けられ、細胞の内側から外側にH  を輸送するH  ポンプと呼ばれる機能を有します。その後、同じく好塩古細菌から、細胞の外側から内側にCl  を輸送するハロロドプシン(HR)や、光センサーとして機能するセンサリーロドプシン(SR)が発見されました。長らく、微生物型ロドプシンは高塩分環境に特有と考えられてきましたが、2000年に海洋細菌からBRと同じH  ポンプでありながら、系統的に全く異なるロドプシン、プロテオロドプシン(PR)が発見されました。近年の遺伝子解析技術の発展もあり、今日では、様々な環境に生息する多様なバクテリア・アーキア(原核生物)からロドプシンが発見されてきており、その機能も多種に渡ります。

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 本研究では、2011年から2016年にかけて海洋から分離された、Rubricoccus属・Rubrivirga属細菌とそれらが属するBecteroidetes門のRhodothermaceae科(現在では分類群の見直しによりRhodothermaeota門とすることもあります)を対象としています。Rubricoccus属・Rubrivirga属細菌3種のゲノム解析を行うことで、2種の細菌から5つのロドプシン配列を発見しました。この内、2配列は光を受容すると細胞の外側から内側にH  を輸送する内向きH  ポンプとして知られているゼノロドプシン(XeR)のクラスターに入りました。一方、残りの3配列は、それらのみで特徴的なクラスターを形成し、シアノバクテリアハロロドプシン(Cyanobacterial HR; 細胞の外側から内側にCl  を輸送。一部のものはさらにSO    も輸送可能)クラスターに近縁であることが分かりました。

(A) ロドプシン全体の系統樹

(B) 本クラスターの拡大図

RmHR_rhodopsin_tree.png

 機能未知の3配列について、アミノ酸配列を比較したところ、ロドプシンがどのイオンを輸送するのかにとって重要な3カ所のアミノ酸残基(モチーフ)が、2配列がTSA、1配列がTTDでした。TSAモチーフは好塩古細菌が持つHRと同じモチーフであり、系統樹としてもCyanobacterial HRの次にHRのクラスターが近かったため、これら3配列をRmHR(Rubricoccus marinus SG-29  Halorhodopsin)、R28HR1(Rubrivirga marina SAORIC-28   Halorhodopsin 1)、R28HR2(Rubrivirga marina SAORIC-28  Halorhodopsin 2)としました。大腸菌内でこれらのロドプシンを発現させ、活性測定を行った結果、RmHR、R28HR1はHRやCyanobacterial HRと同様、光によりCl  を細胞の外側から内側に輸送するCl  ポンプであることが明らかとなりました。R28HR2については、本研究では活性測定が成功せず、機能未知のままです。

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RmHR_pump.png

 海洋細菌からは、2014年にCl  ポンプが見つかっていますが、RmHRは海洋細菌が持つCl  ポンプとは系統的な位置が大きく異なっています。さらに、ロドプシンが光を受容し、イオンを輸送する過程でのタンパク質の立体構造変化(中間体の変遷)や Cl  イオンとの解離定数が既知の海洋細菌のものとは大きく異なっていました。それらの性質はむしろ好塩古細菌から発見されていたHRに近いということも先行研究で得られているデータとの比較で明らかとなりました。つまり、Rubricoccusは海洋細菌でありながら、高塩分環境に生息する古細菌の遺伝子を保有しているということになります。

 ロドプシン以外にもロドプシンに関連する遺伝子群として、カロテノイドやレチナール色素の生産に関わるblh遺伝子(β-カロテンからレチナールを生産する酵素をコード)やcrtY遺伝子(リコペンからβ-カロテンを生産する酵素をコード)の系統解析を行いました。その結果、これらの遺伝子はRhodothermaceae科が属するCytophagia目あるいはBacteroidetes門の別グループの細菌が形成するクラスターではなく、好塩古細菌が形成するクラスターに入ることが明らかとなりました。

RmHR_blh_crtY.png

 さらに、Rubricoccus属・Rubrivirga属の細菌3種だけではなく、Rhodothermaceae科の他の細菌、Salinibacter ruberSalisaeta longaが持つ同じ遺伝子も、同様に好塩古細菌に近縁であったことから、このグループそのものが過去に好塩古細菌と遺伝子の水平伝播によって遺伝子のやり取りをしていた可能性を示すものです。このような「好塩古細菌様の」遺伝子の数について、比較ゲノム解析を行った結果、Rhodothermaceae科に属する細菌は、別のグループに属する細菌よりも水平伝播が起こったと推定される数が多いことがわかりました。

RmHR_HGT.png

 これまで、ロドプシン保有細菌・古細菌においては、同所的に生息する生物同士(海洋なら海洋微生物、高塩分環境なら好塩菌同士)でロドプシンやレチナール生産遺伝子が水平伝播によってやり取りされていることは示唆されていました。今回初めて、現在では全く異なる環境(海洋と高塩分環境)に生息している細菌と古細菌での水平伝播の可能性を示すことができました。

  

 Rhodothermaceae科の株はそれぞれ、現在では大きく異なる環境に生息していますが、好塩クラスターの株にも海洋・好熱クラスターの至適塩分に近い株がいたり、好塩・海洋クラスターの増殖上限は好熱クラスターの増殖下限に迫るなど、進化の「名残」のようなものが見られます。今後はより幅広い培養株の探索や未培養株のゲノム解析なども通して、この分類群が過去のどの段階で古細菌との水平伝播を行なったのか、どういう順序でそれぞれの環境に適応していったのかを明らかにしていきます。また、残るR28HR2(TTDモチーフ)の機能の解明も行う予定です。

Rhodothermacear_2018.png

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===2020年時点での補足===

 先日発表されたHasegawa et al. 2020(業績ページ参照)において、この論文発表時まではCyanobacterial HR(シアノバクテリアハロロドプシン)と読んでいたクラスターに近縁な光駆動型H  ポンプロドプシンのCyR(シアノロドプシン)が発見され、同時に当該クラスターは略称としてCyHRを用いています。CyRに関する詳細は東大大気海洋研HPの解説記事をご参照ください。シアノバクテリアが持つH  ポンプは(一般的に)淡水環境から多く見つかる、XR(キサントロドプシン)クラスターのGR(グロエオバクターロドプシン)がこれまで知られていましたが、CyRは分光学的な性質がGRよりもむしろ好塩古細菌が持つH  ポンプのBRに近いことがわかりました。シアノバクテリアと本論文で対象としたRhodothermaceae科細菌が共に好塩古細菌に近いロドプシンを持つというのは非常に不思議で、ますます、「いつどこで遺伝子のやりとりがあったのか」ということが気になっています。

  また、Rhodothermaceae科(Rhodothermaeota門)の分離株について、その後も好塩クラスターの細菌は分離株が増えると共に、2019年には好熱クラスターと海洋クラスターの間に来るようなRoseithermus sacchariphilus MEBiC09517  という株が新属新種として提案されました。この菌の至適温度は、海洋・好塩クラスターと好熱クラスターのちょうど中間程度であり、個人的には、本分類群の進化や適応を考える上で非常に重要な株だと考えています。私自身、新規の分離株を取得できたので、現在研究中です。 

Rhodothermaeota_2019.png
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