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===その他感想===

 KNC株を用いて、はじめてその活性を検出したのは、2016年4月20日(実験記録より)でした。レチナール添加無しに活性が測定できるとは自分でも考えておらず、微弱な活性でありながらもpHの減少(H+ポンプのため)が見られた時は驚きました。培養液の遠心量を増やせばクリアなpH変化のデータが得られるはずだということで急遽、新しいロットで培養を開始したのを覚えています。この株は増殖が(水圏から得られる好気性の細菌にしては)少し弱く、10〜20日培養してようやくまともに濁っているのが見えるような株だったので、たくさんの500mLフラスコに150mLの培地を作成しては2週間ほど放置(増殖は1日1回見ていましたが)・・・というのを繰り返していました。

 そもそも何故「活性が出るとは思ってもいなかった」のにこの細菌を使ったかというと、元々、2013年に出た「Metagenomics uncovers a new group of low GC and ultra-small marine Actinobacteria」(Ghai et al., 2013)で”海洋性”のultra-small Actinobacteriaというものに興味を持ったからです(KNC株は”淡水性” ultra-small Actinobacteria)。未だに培養されていないのですが、海洋性のActinobacteria(Ca. Actinomarina)はゲノムサイズが1Mbp前後と、自由生活性にしては極めて小さく、海洋環境に広く分布し、その上でロドプシンを保有しています。Proteobacteria門のSAR11やSAR86などのように「ゲノム縮小があってもロドプシンを使いたいんだろう」という考えがベースにありました。時を同じくして、微生物生態学会(@浜松)でお会いした当時遺伝研(現産総研)の中井さんが、ultra-smallな細菌の研究をされており、ロドプシンの話になりました。その時は共同研究というような話ではなく、単に「ultra-smallな菌とロドプシンの話」程度だったような気がします。

その後、2015年に新属新種として記載されたAurantimicrobium minutumはロドプシンを保有し、blh遺伝子を持たないことがわかりました(2016年にゲノム公開となっているのですが、これは先に情報としていただいていました)。また、2015年にはRhodoluna lacicolaというA. minutumに近縁な菌を用いて、「ロドプシンを持っているもののblh遺伝子がない菌では自身でレチナールを作れず、外部に頼っているだろう」という結果が出されていました。そのため、ゲノム縮小をしていろんな遺伝子を落としていく中で、レチナール生産を自分でできなくなってでも、やっぱり(貧栄養や飢餓の時に使えるから)ロドプシンだけは持っていたい(色素は誰かちょうだい)ということなのだろうというのが実験開始前の仮説でした。Ca. Actinomarinaは培養株がなく、Rhodolunaはすでに試された、ということで別のActinobacteriaとしてKNC株を使おう、ということになったのです。

活性は出た、レチナールを加えて同じサンプルで測定すると活性が上昇するため、レチナール生産量はロドプシン量に比べて足りない(上記解説参照)、というところまでは比較的すぐに結果を得ていました。しかし、「レチナールが結合しているのか(別遺伝子によるレチナール生産)」か「別の色素が結合して光受容を担っているのか」ということを詰め切るのに、その後2年ほど掛かりました。(余談ながらKNC株が持つロドプシンのグループは補助色素としてレチナール以外の色素を結合できることが知られていたため後者の仮説だったなら、もっとインパクトあったのにと思いました)

色素解析としてHPLCをしていただいても、「カロテノイド」は見られるものの、レチナールは検出できず、岡山大須藤研究室との共同研究としてヒドロキシルアミンブリーチ法(ロドプシンからレチナールを外し、その際の吸収スペクトルの変化を見る)により、吸収波長がレチナールオキシム(ヒドロキシルアミンによって出てきた状態)に非常に近いものが検出できましたが、やはり「レチナールそのものか」というと、外堀が埋まった、という状態に過ぎません。また、岡山大の助教小島さんや、卒業された土井さんに何度も分析をしていただいても、S/N比(シグナル/ノイズ)があまり良くないデータが続き、明条件のサンプルや暗条件のサンプルをたくさん培養しては遠心し、分析条件を検討していただきということを繰り返していました(これがざっと2017年夏頃〜2018年末くらい)。最終的には福井工業大の柏山先生に質量分析を依頼し、ついにKNC株から直接、色素を抽出し、(オキシムではない)レチナールの検出に成功したところで、「blh遺伝子がなくてもレチナールを生産しているだろう」という結論にたどり着きました(2019年初夏)。

この長い、「あと1歩外堀が埋まらない」間に、微生物生態学会(@仙台;正確には環境微生物学系合同大会)での優秀ポスター賞の受賞や博士論文の作成、日本学術振興会特別研究員PDへの申請・採用など、様々なイベントがありました。特にポスター賞の受賞、学振PDへの申請については、ポスター発表時間中に現在の受け入れ研究者である玉木さんに聞いてもらえたことが大きな転機となりました。

昨年夏の学会や1度目のreviewコメントで、追加の実験を少しすることにはなりましたが、A. minutumについては、増殖試験・ロドプシンの活性測定・分光学的解析・質量分析・大腸菌を用いたロドプシンの機能解析など、種々の手法を用いてこのような成果を得ることができました。関係者の皆様に改めて感謝いたします。この「ロドプシンを持つがblhは持たない」という微生物については引き続き研究していきたいと思います。

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